(写真左)一般社団法人日本PMO協会 会長 理事 / (写真右)グループDX企画部 ジェネラルマネジャー 神谷 徹 様
株式会社JPデジタル(以下、同社)は、日本郵政グループのDX施策を実行するために設立された戦略子会社である。
グループ各社におけるデジタル化を推進し、「郵便局アプリ」や「ゆうID」といったプロダクトの企画・開発・運用を行っている。
同社の開発現場では、施策の多様化と同時並行化が進んだ結果、スクラム単独では対応が難しい課題が顕在化していた。
具体的には、複数施策間での意思決定や承認の所在が曖昧となり、誰が最終判断を担うか、どこに相談すべきかが不明確になるケースが増加していた。
さらに、同社社員は多様なバックグラウンドを持ち、システム開発経験に一定の差が見られたことから、横断的な進行支援と品質確保の両立が求められていた。
このような背景から、2024年4月、施策推進統括組織直轄のもとにPMOチームを新設。
同チームは、複数施策を横断的に支援しながら進行管理、品質管理、スクラムでの課題解決を担う体制として設計された。
これにより、施策規模と開発スピードの両立を可能にするガバナンス構造が整備され、グループDX推進の基盤となるPMO組織が確立した。
同社開発の特性として、複数施策が並行し、同一のリリースポイントで同時リリースを行うこと、さらに内製・パートナー主体・マルチベンダなど多様な開発体制が存在することが挙げられる。
また、施策要求元であるビジネス主幹も施策ごとに異なり、全体を統括的に管理することが求められていた。
(画像提供)株式会社JPデジタル
このような状況の中で、PMOは二つの柱を中心に体制を整備した。
① 成果物およびイベントの標準化
施策ごとに異なっていた成果物や承認プロセスを整理・統一し、共通の「標準成果物」を定義。これらを「カットオーバクライテリア(リリース条件)」として位置づけることで、開発品質とリリース判断基準の明確化を実現した。
② 役割の明確化と分業の最適化
PMOが担う横断領域(総合テスト、セキュリティ、UXレビュー、リソース管理など)と、スクラムが担う開発領域を明確に分離。これにより、スクラムチームは開発に専念でき、PMOは品質と進行の両面で支援する体制を確立した。さらに、PMO体制構築においては、PM/PMO経験者の中途採用と外部パートナーからの知識移管を並行して実施。
外部機関のPMO資格を社内認定資格として定義し、受験費用補助などの仕組みを整えることで、メンバーのスキルアップを体系的に支援した。これにより、開発体制の差異や品質ばらつきを抑制するとともに、新規参画メンバーの早期戦力化を実現。
結果として、施策推進メンバーが上流工程や企画検討に十分な時間を確保できる体制を築いた。
同社PMOは、スクラムを基盤とし、全体最適を図るアジャイルPMOとして機能している。また、複数スクラムを統合する「Scrum of Scrums」としての役割も果たしており、横断的な品質・進行管理、リリース調整、課題解決支援を通じて、グループ全体の開発推進力を底上げしている。
全社的なガバナンスを担う一方で、個別スクラムチームの課題にも直接介入し、早期解決を支援するなど、全社型PMOと事務局型PMOの双方の特性を併せ持つことが特徴である。
このPMO組織は、当初わずか数名からスタートしたが、その活動価値が社内で認められ、現在は8名体制へと拡大。
標準化と迅速な意思決定を両立する運営が評価され、日本郵政グループ内における信頼性と存在感を確立している。
グループDX企画部の皆様
PMOの設立により、従来のスクラム単独体制では実現が難しかった横断的な品質管理と、複数施策の同時推進を両立できる体制が整備された。
特に、成果物標準化と役割分離により、リリースプロセスの明確化と再現性の高い進行管理が可能となったことが大きな成果である。
【定量的成果】
これらの取り組みを通じ、施策推進速度の向上と品質の均一化を両立し、結果として、同社が関与する施策数は拡大傾向にある。
日本郵政グループ全体における同社のプレゼンスも高まり、DX推進を支える中核組織としての役割を確立している。
アジャイルPMOによる戦略的ガバナンスと品質向上の価値
同社は、複数の施策が並行する大規模アジャイル開発環境において、ガバナンスとスピードの両立を実現した点が高く評価された。
施策横断の品質・進行管理を担うPMOを設立し、スクラムチームとの明確な分業を行うことで、開発組織全体の一体感と生産性を高めた。
また、標準成果物や承認プロセスの整備により、内製・マルチベンダ・パートナー主体など多様な体制間での品質の均一化を実現している。
さらに、本事例は、スクラムチームの増加やスクラムのスケーリングに伴い発生する各種組織的・経営的課題を、PMOの設立と運営によって解決した好事例であり、アジャイル開発を採用する他の企業や組織に対しても、実践的な示唆を与えるものである。
PMOがアジャイル開発組織において果たすべき重要な役割を示した、先進的かつ高い再現性を持つ事例として評価できる。
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