プログラムマネジメント経験者に訊く

プロジェクトマネジャー、PMOのネクストキャリアとしてのプログラムマネジメント。

日本PMO協会では、日本におけるPMおよびPMOの普及を目指しております。

今回はプログラムマネジャーとして活躍されている栃尾氏にプログラムマネジメントについて、そしてプロジェクトマネジャーやPMOのネクストキャリアとしてのプログラムマネジャーについてお話しをお伺いしました。

皆様のキャリアアップ、スキルアップに活かしていただけますと幸いです。

 


プロフィール: 栃尾美紀 氏

外資系ソフトウェア会社勤務。外資系ITベンダーで、営業・マーケティング・PRに関するプログラムマネジメント、外資金融機関での広報・IRのプロジェクト等を歴任。プロジェクトマネジメントの国際資格であるPMP®有資格者。経営管理修士(MBA)。

 


プログラムマネジャーまでのキャリアパス

日本PMO協会:プログラムマネジャーになるまでのキャリアパスを教えてください。 

  

栃尾氏:新卒で外資系ソフトウェア会社のマーケティング・PRで仕事をしていました。 

その後、外資系金融機関で広報・IRの仕事をしていたのですが、そこでIPOのプロジェクトに携わる経験しました。 

その後、外資系ソフトウェア会社でPRプログラムマネージャーとして、複数プロジェクトの戦略の策定、予算の管理、サプライヤマネジメント、リソース管理などでプログラムマネジメントは面白いなと感じました。 

  

日本PMO協会:日本では広報・PRのプロはあまりいませんから、とても貴重なキャリアですよね。 

その貴重なキャリアにさらにプロジェクトやプログラムのマネジメントを経験されており、素晴らしいですね。 

  

栃尾氏:その後、海外のITスタートアップに対して、日本市場でのGo to Marketのコンサルティングやビジネス立上げを提供するサービス会社で複数のプロジェクトを経験した後、再び外資系ソフトウェア会社でチャネルプログラムマネジメントに従事しました。 

  

日本PMO協会:チャネルプログラムマネジメントとは、どういうプログラムマネジメントなのですか? 

  

栃尾氏:ソフトウェアを売っていただける多くの販売代理店をマネジメントするプログラムなのですが、プログラムのベネフィットを活用して販売代理店がビジネスを最大化できるように、担当営業と連携しながらプログラムの企画や運営をします。そして、販売代理店に対するコミュニケーション、また、設定された要件を販売代理店が満たしているか、監視・コントロールをします。 

これらのプログラムマネジメントもやっていましたが、同時に、新しいプログラムの立上げ等に関連するプロジェクトも担当していました。 

  

日本PMO協会:大変そうですが、とてもエキサイティングなお仕事ですね。 

  

栃尾氏: そうですね。達成感はありましたね。 

現在は、販売代理店に対して、が中長期的なビジネスプランを作成して、設定したビジネスゴールを達成するためのアクションアイテムやタスクの実行を支援し、管理するプログラムのマネジメントをしています。 

  

日本PMO協会: ありがとうございます。 

プロジェクトを経験し、その後複数のプロジェクトを管理するプログラムマネジメントを多く経験され、活躍されているというキャリアパスなのですね。 

  

栃尾氏: 私としては、ルーティンワークではなく、期限が決まっている仕事を成功させる仕事がチャレンジングで愉しいですね。 

毎回新しい事にチャレンジできることが良い点ですよね。 

仕事は飽きません。 

 

プログラムマネジメントの「やりがい」

 

日本PMO協会:プログラムマネジメントの「やりがい」はどういったところですか? 

  

栃尾氏:PMI®のプログラムマネジメント認定試験(ガイドブック)でも規定されているように、プログラムマネジメントで重要な事は「ビジネスベネフィットの達成」や「ビジネスゴールの達成」です。 

例えば先ほどのチャネルプログラムの例ですと、チャネルビジネスのベネフィット(便益)の最大化をするために色々なプログラムやプロジェクトを立ち上げ管理するわけです。 

プログラムマネジメントではエグゼクティブと仕事をする事も多く、経営視点など日々勉強になることがやりがいですね。 

  

日本PMO協会:そうですね。ステークホルダーが多様なプログラムマネジメントの場合は社内だけではなく、社外のエグゼクティブと仕事をする事が多いですよね。 

  

栃尾氏:プログラムマネジメントの場合はエグゼクティブレベルとのビジネス自体の設計やディスカッションに携わることが多いんですよね。 

  

日本PMO協会:プログラムの社内オーナーはどういう方になるのでしょうか? 

  

栃尾氏:それぞれの領域のトップになりますね。 

役職は色々ですが、各領域の責任者レベル以上の方が多いと思います。 

 

プログラムマネジメントの難しさ

日本PMO協会:プログラムマネジメントでの難しさは何ですか? 

  

栃尾氏:エグゼクティブレベルの方とのやり取りがありますので、とても気を使います。 

また、ビジネスゴールを達成させるためには、プログラム配下のそれぞれのプロジェクトの整合性を考えないといけないところですね。 

プロジェクトでは設定した目標を期限内に達成させるために活動していますが、プログラムではそれらの整合性を取るために各プロジェクトの目標の調整や変更をしていかなければならないです。 

これらは相反する場合も多いので、やりくりが難しい点と言えます。 

プログラムマネジメントでは、これらのバランスを取る事が醍醐味ですが、このバランスを取ることが難しいですね。 

  

日本PMO協会:なるほどですね。それは醍醐味であり、同時に難しいポイントですよね。 

 

プログラムマネジャーとPMOとの関わり合い

日本PMO協会:今まで経験したプロジェクトやプログラムでPMOは設置していましたでしょうか? 

  

栃尾氏:いました。 

私が経験した中では本社のプログラムマネジャーがPMOを兼ねていました。 

  

日本PMO協会:そうなんですね。そうすると、PMOの立場は「ガバナンス(統制)」に特化したPMOですね。 

いわゆるPO(プロジェクト事務)的なPMOではなかったと。 

  

栃尾氏:そうですね。 

例えば、会社のビジネスモデル変革のイニシアチブ(戦略や計画)の落とし込みや管理するようなPMOですね。 

見方によっては、社長直下のイニシアチブのPO的な要素もあるかもしれません。 

  

日本PMO協会:プログラムマネジャーとPMOとの関わり合いはどういったものがありますか? 

  

栃尾氏:私が経験した中では、本社側のプログラムマネージャーは、プロジェクトのインプリメンテーション(実行)に関与しているPMOやPOを管理しつつ、自身がビジネスベネフィットやビジネスゴールに関わるガバナンス側のPMOとしての役割を担う、という感じでした。

 

プロジェクトマネジャー、PMOのネクストキャリアパスとしてのプログラムマネジャー

日本PMO協会:プロジェクトマネジャーやPMOの次のキャリアパスとしてプログラムマネジャーを考える人もいると思いますが、プログラムマネジャーにステップアップする際、どういう技術や経験が必要だと思いますか? 

  

栃尾氏:日本ではシステム系のプロジェクトマネジャーやPMOの方が多いという印象をうけるのですが、そのような方はビジネス側のプロジェクトを経験するのが良いと思います。 

例えば、ビジネスゴールを達成させるために必要なIT以外の要素のプロジェクトにチャレンジする事です。 

プログラムマネジメントでは、ITだけではなく、様々な領域のプロジェクトを統合的にバランスよく、さらに全体を俯瞰して管理していく必要があるので、様々な領域のプロジェクトを経験するのが良いですね。 

そうすると、エグゼクティブレベルへの提案や対話もできるようになると思います。 

  

日本PMO協会: 確かにそうですよね。プロジェクト、プログラム、ポートフォリオなど管理する領域が大きくなればなるほど、ビジネス観点や経営視点が必要ですものね。 

  

栃尾氏:あとは、要求事項を満たす成果物を納期までに納品するという観点だけではなく、本当にその成果物がビジネスゴールに結びついているのかという観点も重要になってきますね。 

ビジネスゴール、ビジネスベネフィットを何をもって達成させるのかという観点を養っていくということも重要です。 

 

日本PMO協会の会員、有資格者へのメッセージ

日本PMO協会:最後に日本PMO協会の多くの会員様、有資格者様にメッセージやアドバイスをいただけますと幸いです。 

  

栃尾氏:個人的にはプログラムマネジメントの概念が日本でもっと広がってほしいと思っていますので、ぜひプログラムマネジメントにチャレンジしていただけると嬉しいです。 

そのために、ビジネスゴールやビジネスベネフィットに目を向けていただければと思っています。 

  

日本PMO協会:まずはビジネス観点を持つという事ですよね。 

  

栃尾氏:そうですね。 

例えば、Slackを導入するプロジェクトがあったとします。 

一般的なプロジェクトですと、いつまでに要求事項を満たしたSlackとSlackを使ったオペレーションを導入することが目標になるかと思いますが、もうちょっと視点を広げて、Slackを導入した事によりどれだけ生産性が高くなるのか、ES(従業員満足度)が高くなるか、そのKPIは何か、などを考えていくとビジネス視点が徐々に得られていくと思います。 

  

日本PMO協会:プロジェクトで達成した事がどう実際のビジネスに結びついているかの観点が重要ということですね。 

  

栃尾氏:あとは、プロジェクトを「辞める」という視点や判断をもつことも重要です。 

これはビジネス観点が無いと決断できないことです。 

例えば、外部環境が変わって、ビジネスゴールやビジネスベネフィットの定義が変われば、それを達成させる要素であるプロジェクトの目標も変わります。 

中にはそのプロジェクト自体がビジネスゴールやベネフィットに結びつかなくなる場合もあります。 

この場合、プロジェクトを辞める判断をしなければならないです。 

しかし、現状では、ビジネスゴールやベネフィットに結びつかなくなっているにも関わらず、プロジェクトが継続されている場合が多々あります。 

リソースは有限なので、ビジネスゴールやベネフィットに結びつかない事は辞めましょうと提案できることが今後の価値になっていくと思っています。 

  

日本PMO協会: 素晴らしいメッセージとアドバイスありがとうございました。 

 


ありがとうございました。

編集後記:ビジネスを成功に導く「バランス力」

プロジェクトマネジャーはプロジェクトをやりくりするお仕事であり、PMOはプロジェクトマネジメントを包括的に支援するお仕事です。

では、そのプロジェクトは何のためにやっているのか?

それは、ビジネスゴールやビジネスベネフィット達成のためです。

 

プロジェクトマネジャーやPMOの経験を高め次のステップに進む際は、「なぜこのプロジェクトをやっているのか?」の回答になるビジネスゴールやビジネスベネフィットに目を向ける事が重要です。

 

また、特定の領域ではなく、様々な領域のプロジェクトやPMOを経験する事で、ビジネスゴールやベネフィットに必要な要素の観点を得られます。

経営でも、様々な要素のバランスが重要ですが、これらのバランス感覚を得ることにより、より大きなビジネスゴールやベネフィットを達成することができます。

 

皆様のさらなるキャリアアップ、スキルアップを祈念しております。